「春の朝」改訳

ロバート・ブラウニングの劇詩『ピパ、過ぎゆく』(1841年)221行以下の日本語訳です。 上田敏により「春の朝(あした)」として翻訳され、『海潮音』に収録された訳が有名ですが、元の詩では脚韻が踏んであるのに訳ではそれが失われています。 そこで、脚韻…

恋の感覚

図星を指されたように、どきりとする。そうだ。このひとだ、と。 まるで白い花びらがゆっくりとひらくように、それは始まる。 胸の奥に、ランプが灯る。小さな炎は揺れながら、野火のようにひろがる。 あのひとへ、あのひとへ、あのひとへ。 思いは、磁石に…

珈琲の味

珈琲の匂いをかぐと、ちょっと背伸びをするような、 新調したネクタイを初めて締めるような、 かすかな期待と緊張が走ります。 口をつけて飲むと、珈琲の甘さと苦みと酸味が 頬の裏を満たして喉の奥に消えて。 その味をさて、何にたとえましょう。 春の午後…

金木犀が匂った

金木犀が匂った。 日曜日、雨がパラつく午後遅く、図書館にむかって歩いた。 妻とふたりで歩いた。一本の傘をふたりで差して歩いた。 腕を組んで、ほどいて、指をからめて、ほどいて、歩いた。 生け垣のある家の横を通るとき、ふっと香った。 かすかに甘い煙…

「夏の盛」を訳しなおす

たまたま見つけたとあるウェブページ*1に、この詩が載っていました。【夏の盛】作/デエメル 訳/森鴎外 わが故郷を日が染める 高穂が熟してふくれる、パンの温さに。 黄金色であつた子供時代と同じに。 大地よ。われ汝に謝す。 燕はわれを呼ぶ、瑠璃色の空…

戦争賛成

戦争はしかたないのです。いやとか言ってると負けてしまいますよ。 負けたらつらいですよ。いやならしっかりね。 戦争で死ぬかもしれないって、だれでもどうせ死ぬでしょう。 戦争しても死ななかったらいいのですか。殺されなかったら死にたくなってもいいの…

戦争反対

戦争はたいへんです。もっとゆっくりしていたい。 死ぬならしずかに死にたい。ねむりながら死にたい。 みじめでもいいからわらっていたい。泣きながらでもいいからわらっていたい。 つらくても好きなことを思って生きていたい。 ほしかったらあげます。たい…

ちいさい神ちゃんの天地創造

ベッドにいると、じめんなんてない。 ベッドにいると、うみのうえみたい。 くらいから、でんきつける。 あかるくなった。たいようもでた。つきもある。 がようしに、えをかく。これはくらげ。 ゆかにもかく。これはさかな。これはかえる。 かべにもかく。こ…

季節の感触

春は、かゆい。ぽりぽり。 夏は、いたい。ひりひり。 秋は、かるい。はらはら。 冬は、おもい。しんしん。

愛について

恋は授乳期。 その愛は甘くなつかしく。 新婚は離乳期。 その愛はなべて柔らかく。 やがて生えそめ そして生え変わる歯も。 苦さ辛さも。 のどごしも歯ごたえも。 味の幅を広げる。 その愛は限りなく。 舌は冴え、鼻は研ぎ澄まされて。 すべてを抱きしめる。