恋の感覚

 図星を指されたように、どきりとする。そうだ。このひとだ、と。
 まるで白い花びらがゆっくりとひらくように、それは始まる。
 胸の奥に、ランプが灯る。小さな炎は揺れながら、野火のようにひろがる。



 あのひとへ、あのひとへ、あのひとへ。
 思いは、磁石にまとわりつく砂鉄。こすった下敷きに吸い付く紙吹雪。
 泣きながら使うハンカチのように、ぬぐってもぬぐっても、心は濡れやまない。



 ざわめく思いは果てしなく。答えのない疑問がこやみなく襲いかかる。
 伏せた睫毛のその下の瞳を。なぜこんなにも見つめたいのか。
 髪にかくれたその頬に。なぜこうまでも指を伸ばしたいのか。
 世界が感情にはためく。遠吠えをしたくなるような、自分の獣性におののく。



 日一日と。魂にそのひとが彫りこまれる。
 十年経っても、百年経っても忘れようのない、彫り跡。
 深々と食い込む、気の遠くなるような思慕の感覚。



 これを、恋という。