珈琲の味

 珈琲の匂いをかぐと、ちょっと背伸びをするような、
 新調したネクタイを初めて締めるような、
 かすかな期待と緊張が走ります。



 口をつけて飲むと、珈琲の甘さと苦みと酸味が
 頬の裏を満たして喉の奥に消えて。



 その味をさて、何にたとえましょう。
 春の午後にソファーに体をゆだねるような感覚。
 冬の朝に二度寝を楽しむような安逸。
 気持ちに、ネクタイをほどいたようなゆとりが生まれます。



 珈琲カップを置くときは、少し珈琲と親しくなったような気持ちになります。
 「ありがとう」と声をかけたいような気持ちです。