金木犀が匂った

金木犀が匂った。

日曜日、雨がパラつく午後遅く、図書館にむかって歩いた。
妻とふたりで歩いた。一本の傘をふたりで差して歩いた。
腕を組んで、ほどいて、指をからめて、ほどいて、歩いた。
生け垣のある家の横を通るとき、ふっと香った。

かすかに甘い煙のような、胸を軽くつかまれるような、花のような。
花だ。金木犀だ。そんな季節なんだね。もう。

濃い緑の小さな葉がまるく刈り揃えられた金木犀の樹影に
点々と橙色の花が暗いネオンのように咲いて
顎に指をひっかけるような有無を言わせぬ優しさで
甘い匂いを放って。

金木犀が匂った。
今年初めての金木犀が。

指をまたからめた。少しだけ強く。