２０章

　庭に咲き乱れるバラの花に、王子さまは落ちこみます。

２０章

　それでもちいさな王子さまは、砂を、岩を、雪を越えて、長いこと歩きとおして、とうとう、道を見つけました。道という道は、たどれば、ひとに行きつけるものです。
 
「こんにちは」と、あの子はいいました。
 
　庭に、バラの花たちが咲いていました。

 
「こんにちは」と、バラたちがいいました。
 
　ちいさな王子さまは、目をみはりました。みんなみんな、あの花とおなじようです。
 
「きみたちはいったい、なんなの？」あの子は、おどろいて尋ねました。
 
「わたしたちは、バラよ」と、バラたちはいいました。
 
「あぁ！」と、おもわず、ちいさな王子さまはいいました。
 
　ずいぶん滅入ってしまいました。あの花は、じぶんはひとりぼっちで、この宇宙には、ほかに仲間もいないのだと、話してくれていたのです。でもそこに5千本もあるのです。みんなうりふたつで、それもたったひとつの庭に！

 
「これは、痛いだろうなぁ」と、あの子はつぶやきました。「きっとこれを見たら、あの花は…咳きこんで咳きこんで、死んだふりしてごまかそうとするにちがいない。ぼくは世話をするふりをしなくちゃいけなくなるよ。だって、そうでもしないと、ほんきで死んでしまうから…」
 
　それからまたつぶやきました。「ほかにはない花を持ってて、めぐまれてるって思ってた。でも、ただのバラを1本持ってるだけだった。あれと、ひざまでの火の山を3つ、そのうちのひとつは火が消えてるし、もしかしたら、ずっと消えたままかもしれないし、こんなことじゃ、りっぱな王子さまになんてなれないよ…」そういうと、草のうえに、つっぷして、泣くのでした。

《参考》
フランス語原文 http://www3.sympatico.ca/gaston.ringuelet/lepetitprince/chapitre20.html
英語訳の一例 http://www.angelfire.com/hi/littleprince/framechapter20.html
※イラストは、青空文庫「あのときの王子くん」の画像を参照させてもらっています。
※写真は、次の場所から参照させてもらっています。
（バラ園）http://t2.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcR7OR_PkRKR1N637-HeKalHubC6OyENCSwpCPe3g4FsMgsGZOmUfQ