中性子星はとんでもなくでかい原子核

 中性子星という星があります。肉眼で見ることはできませんが、数は多くて、ごくふつうの恒星の末期的状態です。中性子星は太陽よりもかなり質量の大きな(重い)星がその寿命の終わり近くで膨れ上がって爆発した後の残り火のような星です。

 太陽もそうですが、夜空に見える星のほとんどは恒星です。恒星というのは気体の塊です。それ自体の重力で寄り集まって球状になっている気体です。十分に気体がたくさん集まってそれが密集すると、ガスの原子どうしが接近してときどきぶつかるようになります。その状態が進むと、ぶつかった後で原子どうしがくっついてしまうことが起こります。これが核融合です。くっついてしまうことが起こるのはそのほうがエネルギー状態が低くなる、いいかえれば落ち着くからです。太陽はいま、その中で水素原子どうしが衝突して融合する、それによってエネルギーを光や熱の形で放出するということをしています。そうやって太陽や星は輝いているわけです。

 太陽や恒星の大きさは、そもそもの気体の存在量によって決まる重力、その重力による寄り集まろうとする力と、放出されるエネルギーによって逆に膨くれあがろうとする力のバランスで決まります。核融合の材料になる水素原子が融合してだんだん少なくなってくると、放出されるエネルギーが減ってきます。そうすると、重力はあいかわらず働いて縮もうとする力は変わらないところにもってきて、水素の核融合による熱膨張が衰えてきます。そうすると、原子どうしがだんだん接近します。ついには、原子どうしがラッシュどきの満員電車の中の乗客どうしのように密着してしまいます。原子の外側には電子がとりまいているんですが、電子どうしは電気的な力でお互いに反発します。そのおかげで原子どうしが密着しても、それ以上には縮まらないですみます。きついけれどもとりあえず安定な状態にはなるわけです。

 ところが。大きな星の場合には、重力があんまり強いので、恒星の核融合燃焼が衰えてくると、電子どうしの反発力で重力を支えきれなくなってつぶれてしまうんですね。冬場のラッシュアワーの電車の乗客みたいな原子たちが着膨れていたためにその分の間隔が開いていたのに、凝集圧力がさらに高まってダウンジャケットが弾けてしまったようなものです。そうすると、電子は原子核の中の陽子にまで押さえつけられてくっついて、そこで電子と陽子のペアは一体化して中性子になります。中性子どうしはお互いに自分の大きさ以下にはならないように反発するので、そこでやっとつぶれひしゃげた星がやっともういちど落ち着きます。この状態が中性子星というわけです。

 その結果、中性子星は、そのほとんどすべてが原子核をつくる素粒子のひとつである中性子でできています。そのために、中性子星中性子星と呼ばれます。

 さてこの中性子星をつくる中性子。電気的に中性で、水素原子の原子核である陽子とほぼ同じ質量を持つ素粒子ですが、Wikipedia によると、中性子の質量は1.6749×10の27乗キログラムで、中性子の大きさは、およそ1フェムトメートルすなわち10のマイナス15乗メートルです。

 この中性子と同じ密度の星が中性子星。その密度は太陽の密度の10の14乗倍以上という、とんでもない大きさですが、言い換えるとこれは星ひとつがまるまる1個の原子核になってしまったということなんですね。中性子星は質量が太陽程度(ちょっと大きいくらい)、半径10km程度ということですが、そんな大きさの原子核が宇宙空間にぽつねんと漂っているのですね。ありえないたとえですが、満員電車の乗客があんまり押されて解け合ってひとりの巨人に変化してしまったようなものです。

 フィギュアスケートの選手が大きく拡げていた腕をきゅっと抱き込むと回転が速くなるのと同じ原理(角運動量保存の法則)で、中性子星は秒単位以下の超高速で自転します。そんな中性子星が地球に顔を向けるたびに、地球では中性子星からのX線のような電磁波のパルスを受け取ることができます。このような中性子星はパルサーと呼ばれます。

 そんな中性子星が漆黒の空間に孤立して浮いているのです。最盛期の星と比べれば太陽と小惑星くらいの差がある小さい星ですが、原子核と考えればとんでもなく巨大な原子核です。なにせ小惑星くらいの大きさの原子核なんですから。それが周りに他の原子のひとつもなく、あっても比較にならない大きさで真っ暗な中で震えているのです。中性子星は自分の大きさを恥じて身を縮めているようにすら思えます。パルサーのすすり泣きが聞こえてくるようではないですか。

 ここで一首:
  恒星の潰れて巨大原子核中性子星すすり泣く夜