サイクリック宇宙論ってそういうことだったのか

 川合光「はじめての超ひも理論」を読んだ。

はじめての〈超ひも理論〉 (講談社現代新書)

はじめての〈超ひも理論〉 (講談社現代新書)

 まえがきによれば、図解を担当している高橋繁行さんに質問を受けて、それに答えた結果が文章に起こされてできた本だそうで、読みやすいのは文章を書いた高橋さんの功も大きそうだ。
 図解が多く、たしかにわかりやすい。
 超ひも理論の解説書なのだが、川合さんたちの説であるサイクリック宇宙論も最終章に解説されている。半ばこれを目当てにこの本を読んだのだが、ニュートンの2ページでの解説や理研のインタビュー記事と比べるとページ数の制約が少ない分くわしく書かれている。
 いまの宇宙はビッグバンとビッグクランチそしてまたビッグバン、というサイクルを50回ほども繰り返してきたと考えることでインフレーション理論を置き換えることができるんじゃないかという主旨のようだ。なぜ50回かというと、宇宙の膨張速度(ハッブル速度)に上限があるはずだという推論と現在の宇宙の大きさの測定値から割り出した回数とのこと。
 そもそも、宇宙の始まりはビッグバン開始からプランク時間というきわめて短い時間だけ経過した時点までしか理論的な状態を遡って推定できない。それ以下のスケールでは時空が定義できないらしい。ところがこの本で呼ぶところの超ひも理論によって、そのプランク時間以前をあえて推定すると、プランク時間の半分の時刻というのはプランク時間の2倍の時刻と等しい理論上の等価性があるのだという。この半分が2倍に等しいという奇妙な性質は「超ひも理論を解くと、2倍に等しいことがわかるのです」としか書かれていないが、Tデュアリティと呼ぶそうだ。図示するとしたら「短くもあり長くもあるという図を描くべき」なのだそうだ。そこで、このTデュアリティの解釈としてビッグバン以前はビッグクランチと重なっていると考えたのがサイクリック宇宙論ということらしい。そうするとビッグバンの開始点とビッグクランチの終点は無限小の点になる前にプランクサイズで接続していると考えればよいことになって、無限小という状態は考える必要がなくなって都合がよさそうでもある。
 このビッグバン-ビッグクランチのサイクルを一回まわすと、(「われわれの計算によると」と書かれているだけだが)宇宙のエントロピーはおよそ50倍になるそうだ。エントロピーは体積あたりの量なので、それを宇宙の直径に換算すると(50の立方根に比例するので)宇宙の直径はおよそ4倍に膨らむことになる。「温度は宇宙のサイズに反比例するので」、各世代の宇宙の最低温度はその前のサイクルよりも毎回およそ4分の1になるそうだが、これが現在の宇宙の温度3度Kとほぼ等しいことになるのは、プランク温度(またはハゲドン温度)約10の31乗度Kに(1/4)を何回掛ければよいかー答え約50回、というわけで50回くらいのサイクルを経てきたという主張になるらしい。
 この宇宙が開いてはしぼみ、しぼんでは開くというサイクリック宇宙論の説明を読んでいて思い出した詩がある。
 黒田三郎の「紙風船」という詩だ。

 落ちて来たら
 今度は
 もっと高く
 もっともっと高く
 何度でも
 打ち上げよう

 美しい
 願い事のように