電気ってなに?
おととい、レイリー散乱について書き直したものを妻に読んでもらったところ、「小さな粒はとても軽いので、電気を帯びると、ほんの少しの電気でも、敏感に電気の揺れを感じるようになる。」というところでひっかかったという。「電気を帯びるってどうイメージすればいいかわからない」らしい。
電気といえば、壁のコンセントに刺しこめば流れてくるとされている何かだ。蛍光灯のあかりも電気で光ってるという。乾電池も電気の缶詰みたいなものだ。電気を使って動くものはいろいろある。掃除機や洗濯機や冷蔵庫、電子レンジやコンピューター、iPodなど、ほんとにいろいろだ。でも、さて、電気ってなんだろう。
電気はたしかに、具体的な形があるわけではないし、目にも見えない。重さもなければ、さわることもできない。
ちょっと待った。ほんとうにそうかな? 寒くて乾燥した冬に、金属製のドアノブなどをさわるとピリッとくることがある。あれも電気だということは有名な事実だ。それに暗い部屋でセーターを脱ぐと、パチパチっと火花が見えることがある。あれも電気だ。櫛やブラシで髪を梳くとき、髪の毛が櫛やブラシに吸い付いたりする。CDの包装フィルムをはがすときにもよくプラスチックのケースにくっつく。あれも電気だ。乾燥した日に、プラスチックや琥珀を髪の毛や毛皮で擦ると、髪の毛や紙くずのような軽いものがふわっと吸い付くように引き合う。なにかが引かれあっているということは、そこに何かの力が働いているということだ。この力を電気力という。こすることで生まれる電気だから摩擦電気とか、コンセントや乾電池に電線をつないだときに流れる電気に対して、流れていないという意味で静電気ともいう。
電気のことを英語ではelectricityというんだけど、これはもともとギリシャ語で琥珀という意味のelectronが語源だ。琥珀を擦るとやっぱりこの電気力がうまれるからそういうようになったんだ。古代ギリシャ人も、琥珀をこすると軽い羽や埃が吸いつくことは知っていたんだね。いってみれば「琥珀気」。日本語の「電気」という言葉の「電」は雷という意味だ。だから電気というのは雷の「気」、つまり、雷の気配というような意味だ。
ともかく、こすったことで静電気がうまれると、それまでにはなかった、ものを吸い寄せたりはねつけたりする力を持つようになるわけだ。サムライが長い日本刀を腰に差して持っていることを、「刀を帯びる」と言うよね。それと同じように、電気を持つことを「電気を帯びる」というんだ。イメージとしては、あれだ。物語「ピーターパン」には、妖精ティンカー・ベルの粉を振りかけると空を飛べるようになるというシーンがある。頭に思い浮かべるのなら、電気を帯びた状態とは、電気の素になる妖精の粉を振りかけたような状態と思ってもいいかもしれない。電気にはプラス(正)とマイナス(負)の二種類あるんだけど、赤い粉(プラス)と青い粉(マイナス)があるとでも思うとイメージしやすいかな。
でも雷が電気だということがわかったのは、昔といえば昔だけども、実はそんなに大昔のことじゃない。アメリカがイギリスから独立する頃に活躍した政治家で科学者でもあったベンジャミン・フランクリンが、雷雨の日に凧を揚げて確かめた。このうっかりすると命に関わるような危険な実験で、ライデン瓶と呼ばれていた電気を貯めることのできる瓶に雷の電気を実際に貯めてみせたことでようやくはっきりわかった。1752年のことだ。日本だとちょうどこの年に大岡越前守忠相(大岡裁きで有名な大岡越前のモデルになった人)が亡くなっている。ちなみにこの年、1752年の9月14日は、そのころのイギリス帝国(いまのイギリスやアメリカ合衆国)では、暦の切り替えがあった。Linux(やUNIX系のコンピュータ)には cal というコマンドがあってカレンダーを表示できるんだけど、1752年の9月を表示させてみると、ふつうとは違うことがわかる。1752年の9月のカレンダーには9月3日から9月13日がない。9月2日の次が9月14日になっている。
$ cal 9 1752 9月 1752 日 月 火 水 木 金 土 1 2 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 $
ところで、雷が電気だってわかる前には、この琥珀をこすったときに生まれる力のことを日本や中国ではいったいなんと言っていたんだろう。私は知らない。誰か知っている人がいたら教えてほしいと思っている。
そうそう、ライデン瓶というのはいまでいうコンデンサーみたいなものだけど、この名前は「雷電瓶」というわけじゃないよ。オランダのライデンという名前の都市があって、そこにあるライデン大学で発明されたからライデン瓶っていうんだ。カリフォルニア大学バークレイ校で発明されたUNIXオペレーティングシステムが Berkeley Software Distribution 略してBSDって呼ばれるようなものかな。覚えるときには雷電瓶でもいいけどね。
話がそれた。電気力による力には、引っぱりあう力(引力)のときと、その反対にはねつけあう力(斥力)のときとがある。こすったときに、違う種類のものどうしが引きあう。同じものどうしでははねつけあう。そうなると、電気には二種類あって、違う種類の電気は引きあい、同じ種類の電気ははねつけあうということになる。そして、引きあうものがくっつくと、その力は消えてしまうように見えた。電気を起こしやすいものをこすると、同じ種類の電気を無理やりに集めることになるようだ。そして、その電気は、別の電気と出会うと、まるでどっと求めあうように打ち消しあって、すぐに力は消えてしまう。こすると電気を起こしやすいものは、そのままでは電気がどこにも逃げ出せないように電気を流さないわけだ。電気となかよくしないという意味で、こういうものを絶縁体とか不導体という。反対に、金属はたいていよく電気を通す。こういうものを電気のために道を作るという意味で、良導体とか導体という。少し塩などの不純物を含んだ水は、電気をよく通す。湿った空気の場合には摩擦電気が置きにくいのも、実は湿った空気が電気を通しやすいからだ。
さて、電気は、目には見えなくても、重さがないように見えても、力がはたらくようすは見える。電気をとおしやすかったりとおしにくかったりするものがあることもわかった。電気がたくさんたまってくると、そのうち火花が飛ぶことは、古代から知られていたらしい。これは、ふつうは電気をそんなに通さない空気でも、あんまり電気がたまってくると、通ってしまうということだ。つまり電気の圧力が高まると、空気の電気の伝えにくさを押し切って通ってしまうわけだ。大掛かりに摩擦電気を起こしてそれをライデン瓶で貯めることができるようになると、電気を流してみる実験がやりやすくなった。摩擦電気でものを吸い付けたり、火花を飛ばしてみせたりする電気の実験は、ショーとして興行できるほど、人気があったときもあるそうだ。そんななか、1820年にデンマークのコペンハーゲン大学の教授だったハンス・クリスティアン・エルステッドは、広く人前で見せる公開実験のさいちゅうに、電流が流れるとき、磁石の針がふらつくことを見つけた。エルステッドはそれ以上あまり詳しく調べなかったけど、フランスのアンドレ=マリ・アンペールは、その発見を聞いてもっと詳しく調べた。電線の周りに方位磁石を並べておいて、その電線に電気を流す。すると、それまではどれも北を向いていた方位磁石の針が、電線の周りをぐるっと輪になって取り囲むように並ぶのだ。そして、アンペールは、いまアンペールの右ねじの法則と呼ばれる関係を発表した。電気の流れる向きに右手の親指を立てて、そのほかの4本の指を握る。このとき、方位磁石の針のN極(ふつう北を指すほう)は、握った4本の指の回る向きに振れるのだ。その振れの大きさは、電気の流れの大きさが大きいほど大きいというものだ。
電流 _____ Λ / || | | || | | | | | | | | | | | | | | | ___N<-|-S____| | / S | N | / / | ` | |/ /` ` N S / ` | | S-------->N`| ` /| /` /`| | `________/ | ` /| /` / ` | `______/ / ` ` / ` / ` ______/__________/ 【アンペールの右ねじの法則】
この法則によれば、同じ向きに流れる二つの電流は引きあう。反対向きに流れる電流ははねつけあう。なぜか。それは、同じ向きに流れる電流はそのまわりに同じ向きの磁気のうずを引き起こすが、同じ位置ではちょうど反対向きの棒磁石が横に並んで置かれているような効果を持つからだ。
_ _ / / N--S /-> <- N--S / S /N -> <- S /N | / | | / | N / S -> <- N / S /S--N -> <- /S--N / / 【同じ向きの電流は引きあう】
_ / / N--S /<- -> S--N / S /N <- -> N /S | / | | / | N / S <- -> S / N /S--N <- -> /S--S / / ∠ 【逆向きの電流ははねつけあう】
こんなふうに、電気が磁石の力(磁気)に影響を及ぼすことが発見された。
そして、それだけじゃなかった。その反対に、磁石が電気に影響を及ぼすことも見つかったんだ。
この続きは、また次の機会に。