ホロコースト・ファンタジー:「ライフ・イズ・ビューティフル」

ライフ・イズ・ビューティフル [DVD]

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 主演は「ピノッキオ」を演じていたおじさんロベルト・ベニーニ。その妻の役は「ピノッキオ」で青い妖精だったおばさんニコレッタ・ブラスキ。二人の姿をなつかしく見ました。
ピノッキオ [DVD]

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 ナチス強制収容所で父親が幼い息子に辛い事実を楽しい想像でくるんでみせてくれる映画だという映画評を見ていたのですが、ほとんどナチスの台頭とは関係ないような、ごく普通の、ちょっと楽しい恋愛コメディ映画が始まりました。私は「もしかして間違って別の映画のDVDがパッケージの中に入ってしまってるんじゃないか」と疑いました。「まあいいや。これはこれでおもしろいし。」なんて思ってしまいました。

 タイトルもよくないと思います。どうしてイタリア映画のこの作品の日本語タイトルが「ライフ・イズ・ビューティフル」なんですか。La vita è bella がイタリア語の原題です。英語圏で英語のタイトルにするのはわかります。でもそれを日本で上映するときに英語をそのままカタカナにしただけのタイトルってどうなのかと思いますね。せめて「ラ・ヴィタ・エ・ベルラ─生きてることは素晴らしい─」とかに出来なかったのか、なんて思ってしまいます。

 そのくらい、平和で日常的なシーンから始まるのですが、そこに、次第に戦争とナチスの影が忍び入ります。

 主人公はイタリアに住む給仕。非常に機智に富み、よく喋る、お笑い芸人のようなユダヤ人です。叔父は給仕頭ですが、その叔父の所有する馬に派手な緑色のペンキが塗られてユダヤ人を侮蔑する落書きがされてしまったりします。そのうち、妻と知り合い、息子も生まれて、書店経営を始めるのですが、ユダヤ人であるがために、7歳になる息子ともども強制収容所へ送られます。妻はユダヤ人ではなさそうですが、自ら一緒に連れていってくれるように懇願し、容れられます。しかし、同じ強制収容所にはいても、男女は別々に暮らさなくてはなりません。

 「これは楽しいゲームなんだ。1000点獲得したら本物の戦車がもらえるんだぞ」と息子に諭す父。ドイツ語を知らないのに通訳を買って出て、息子に言い聞かせていたゲームのルールに勝手に翻訳して喋るシーンは「勧進帳」の弁慶を上回る機転です。

父の話に丸め込まれる幼い息子が不憫ですが、息子をそういう形で騙す父親を責めることもできません。そんな状況に追いやられた親子が不憫なのですね。その父は、辛い強制労働の後も「ああ楽しかった」と言い、旧知のドイツ人医師と所内で出会って給仕をするチャンスを得ると、隙をみて昔妻と見たオッフェンバッハのオペラのレコードを収容所内に流しながら自分と息子の声を放送して妻に聞かせたりもします。戦争が進展し、ドイツが敗退し、やがて収容所も解放されるときが来るのですが、その前夜、父は必死で息子を箱の中に隠すと、誰もいなくなるまで出て来てはいけないと言い聞かせます。その父はドイツ兵に連行され、息子の目に楽しく歩いているところを見せるために大きく手と足を振って行進してみせながら連れて行かれてしまいます。その父は、結局あえなく撃ち殺されてしまうのです。

 翌朝、所内に人影がなくなり、息子は隠れていた箱の中から出てみます。すると、戦車が現れるのです。連合国の戦車です。アメリカ人兵士が息子を戦車に載せてくれます。父の言葉は真実になったのです。信じれば、夢はかなう。それを絵に描いたような、ファンタジックなストーリーなのですが、やはり心は動かされてしまいます。

 まもなく息子は母親を見つけます。父は帰りませんが、息子はこの物語を私達に語ることができるようになったことを示唆するナレーションでこの作品は幕を閉じます。とても充実した映画作品だと思います。