20世紀の「モンテ・クリスト」:「ショーシャンクの空に」

ショーシャンクの空に [DVD]

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 ストーリーはスティーブン・キングの中編「刑務所のリタ・ヘイワース」です。そのことはキングの自伝的エッセイ「小説作法 On Writing: A Memoir of the Craft」で読んで、映画化されたその作品をいつか見たいと思っていました。

 無実の罪で投獄され終身刑とされた男が脱獄する物語です。
 脱獄するのはアンディーという名前の銀行の元副頭取。経理や税金の知識と技能を使って、節税の方法を教えることで徐々に看守や所長に頼られるようになり、毎週手紙を出し続けることを6年ほども続けることで所内の図書室を拡張しますが、その裏で十数年の間こつこつと、こっそり脱獄のためのトンネルを掘り続けていた…という筋書きです。

 図書室を拡張したときに、入手した「フィガロの結婚」のレコード(モーツァルト作曲のオペラですね)を手にして、その音楽を所内に放送してしまって後で穴蔵(独房)に入れられるシーンがあるのですが、そのとき所内の囚人たちはそれが何の音楽かも知らないながらもその美しさに立ちつくします。拘束され、希望を失っているときに美しい音楽を注ぎ込むことで心の豊かさを取り戻すという象徴的なシーンです。この演出は「ライフ・イズ・ビューティフル」と同じだなと、どちらかが真似したのかなとか、両方に模倣された先行作品があったのかなとか思いました。

 「ショーシャンクの空に」は、いまでは人気映画のひとつだということですが、興行当時はあまり振るわなかったそうです。でも、とてもよくできた映画だと思います。

 主人公のアンディーは、「モンテ・クリスト」のような復讐はしません。その意味では、アンディーはつつましやかな主人公です。しかし、したたかな主人公です。希望を捨てず、地道な活動を続けて、みごとすぎるくらいみごとに目的を達成します。

 ラストシーンは、遠くに入道雲がたたずむ空の下で、青空そのままの色に染め上げたようなまぶしい水色の海が広がり、ベージュ色の砂浜をつまぐるように撫でている中で、小さな古いヨットの傍らで再会を喜びあって抱き合う、蟻のように小さく見える、いくらか年老いた二人。目に痛いように美しい遠景でした。

 狂言回しの俳優モーガン・フリーマンがくやしいほど素晴らしい。
 この人はどの作品でも、たとえれば年取って禿げてからのショーン・コネリーのように、いつもいい味を出しています。「グローリー」しかり、「ロビン・フッド」しかり。