イヴの時間

 ロボットの一般化が陳腐化し、アンドロイドさえ普通のものとなった近未来の、たぶん、日本。アンドロイドは頭の上にイルミネーションのようなリングを表示させていることが義務づけられている。人間は人間そっくりなアンドロイドとともに生活するが、アンドロイドはあくまで人間以下の道具として扱われ、アンドロイドに愛着を持ち人間並みに扱おうとする者はドリ系という蔑称で呼ばれ、変人扱いされる。
 そんな時代に、都内に目立たない喫茶店イヴがある。ここは人間とロボット、アンドロイドを同じように扱いますというルールを掲げてコーヒーその他を提供する。しかし見わたせば、アンドロイドやロボットのために、人間として振る舞う場を提供しているような佇まいである。
 主人公リクオは高校に通う男子生徒。自宅には女性型アンドロイド、サミーがいる。そのサミーの行動記録を見ると、その喫茶店イヴに来たことがあるらしい。リクオとその友人マサキは、秘密を探ろうとイヴを訪れる。客は一見するとみんな人間のように見える。人間の前では非人間的に振る舞うアンドロイドが、喫茶店イヴでは生き生きと振る舞う。そのなまいきさ。はしゃぎっぷり。朴訥さ。ひとくちで言えば、人間らしさ。それらは愛おしく思える。リクオは自分の家のアンドロイドがなぜこの店にくるのか、この店のどんな客なのかを見極めようとして、マサキとともにイヴに通うようになる。やがてサミーが現れ、主人公やその家族を自分の家族として考えていることを知り、アンドロイドを家族と考えることに心を開きはじめる。
 アンドロイドに冷淡なリクオの友人マサキは、反アンドロイド団体の理事を父に持ち、幼少時にはロボットの世話係テックス(THX)になついていたが、テックスが父親に疎まれ喋ることを禁じられて黙ってしまい、マサキはロボット一般を逆恨みし、ロボットはあくまでロボット三原則アシモフのロボットSFとまったく同じもの)にしたがって作られた道具にすぎないという態度をとるようになった。反ロボット団体は、その活動として都内のロボット法違反の疑いのあるグレーゾーンスポットをアンドロイドたちによって調査し、そこにいる人間やアンドロイド全員を記録しリストアップして告発しようとする。理事であるマサキの父から議事録作成を命令されることでその活動を知ったテックスは、イヴに通っていると打ち明けていたマサキを守るためイヴに向かい、イヴを閉鎖するように求める。リクオからの電話でイヴに急行したマサキは、テックスを制止する。そこに反アンドロイド団体から送り込まれたアンドロイドがやってくる。テックスはマサキを守って三原則の第一条を守るため、口を利くようになり、スパイとしてやってきたアンドロイドを追い払う。そこではじめて再び口が利けるようになり、そして危機が去ると再び口が利けなくなったテックスに、マサキは再び愛情を蘇らせる。
 頭上にディスプレイのリングがあるとはいえ、人間そっくりなアンドロイドに対して横柄な態度を取る一般人や、アンドロイドや旧式のロボットでさえ人間並の感情をみせる言動をとるほどの精緻さには、ありえないような違和感を感じた。しかしその一方で、「人間」とはなんなのか、人間は他の人間をどのような基準で人間とみなすのか、人間はどのようなときに他の人間を人間として扱うのか、体が金属やシリコンでできているとかタンパク質でできているとかは大した違いではないのではないか、というような疑問について考えさせる映画でもあった。

「イヴの時間 劇場版」 [DVD]

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