電気ってなに?(その2)

 「電気ってなに?(その1)」
 静電気や雷は電気の力のあらわれだ。電気には2種類あって、同じ種類どうしには引力(引きあう力)がはたらき、違う種類どうしには斥力(はねつけあう力)がはたらく。19世紀には、電気を流すとそのまわりに磁石の力がうまれることが発見された。

 電気を流すとそのまわりに磁石の力(磁気)がうまれる。まるでランプをこすると魔神が現れるようだ。この現象を電流の磁気作用という。この現象では、方位磁石の針が電線のまわりを取り巻くように、ヒクッと振れる。そうだとすると、電線をたくさん同じ向きに並べれば、全体としての磁気は積み重なって強くなるだろう。そこで、電気を流さない絶縁体でできた筒のまわりに、電線をグルグルとらせんに巻いて、電線の糸巻きを作ってみよう。こういう電線の糸巻きは、コイルという名前で呼ばれる。そうすれば、この電線に電気を流すと、同じ向きに電流が何度も流れることになる。このとき電線は、おたがいにふれあっても隣りの電線に電気が漏れて流れてしまわないように絶縁体で覆っておく。そうすると、このコイルに電気を流したときにコイルの電線の一巻き一巻きからうまれる磁気は重なりあって強めあう。全体として、強力な磁石と同じように、鉄や磁石を強く引きつける。電気を流すことで、コイルは磁石になるわけだ。そこで、これを電磁石と呼ぶ。もちろん、電気を流すのをやめると、このふるまいもやむ。スイッチひとつで磁石になったり磁石でなくなったりさせられるんだ。これはとても便利だ。そしておもしろい。そこで多くの物理学者がこの実験に夢中になった。*1

 そして、電気の実験に魅了された物理学者たちは、電流から磁気がうまれるのとは反対に、磁石から電気をうみだす方法を見つけたんだ。それは19世紀の1831年にイギリスの物理学者マイケル・ファラデーが最初に発表した。(実はそのすこし前、1830年にはアメリカの物理学者ジョセフ・ヘンリーが発見していたが発表が遅かった。科学では、先に発表した人が発見の名誉を得ることになっている。みんなに知らせてはじめて、人類はそれを発見したと言えるわけだ。)

 電流が一定に流れつづけていると、そのまわりには一定の磁気がはたらく。電気から磁気がうまれるのなら、磁気から電気を逆に作れてもよさそうなものだ。でも、そうではなかった。磁石がじっとしていても、そのまわりに電気は流れない。しかし、どうだろう。磁石を動かすと、電流が流れた。どういうことか、ファラデーが説明した。それによると、磁石を動かしているときだけ、つまり、磁石の強さが変化しているときだけ、その変化が大きいほど強く、電流が流れるんだ。この現象を電磁誘導という。電気が磁気の変化から誘い出される、おびき寄せられる、導かれるということだ。磁気の変化をつくるには、磁石を動かしてもいいし、電磁石に電気を流したり切ったりしてもいい。電磁石に流れる電流を強めたり弱めたりしてもいい。

 たとえば、コイルに磁石を抜き差しすると、そのたびに電流が流れる。コイルの筒の穴に磁石を差し入れるときに電流が流れ、コイルの筒から磁石を抜くときにも電流が(逆向きに)流れる。もし、コイルをまっすぐな筒ではなくてドーナツのような閉じた円筒にして、その筒のなかで磁石を一定の向きに回転させれば、一定の向きの電流が流れつづけるだろう。そうすれば、磁石の運動で電流を作りつづけることができる。これが発電機のしくみだ。じっさいには、電線を巻いたコイルのドーナツの中の磁石を動かし続けるのはむずかしいので、ちょっと工夫が必要だ。たとえば、回転する磁石の周りにコイルを置いて、磁石がコイルのそばを通り過ぎるたびに電流が流れるようにしたものが使われる。

 それまで、実験に電流を使おうと思えば、ライデン瓶や電池しかなかった。電池はイタリアの物理学者アレッサンドロ・ボルタが18世紀最後の年である1800年に発明していて、ボルタの電池(または、ボルタの電堆[でんたい])と呼ばれて電気の実験に使われていた。しかし、電磁誘導をつかって、電流を作りつづけることができるようになった。こうして、電気を実用的に大量に使える時代が来ることになった。

 最初の電気の実用的な応用は、電信だった。いわゆるモールス信号のトン・ツーの信号で連絡を送る方法だ。長い距離にわたって張った電線を流れてくると、電流は弱まる。それでも、電線のかたほうの端で電流を入れたり切ったりするようすは、もう一方の端にまで伝わる。強力な電磁石なら、伝わってきた弱い電気にあわせて磁力が付いたり切れたりするようすを再現できる。1845年1月1日には、鉄道の駅と駅の間に用意された電信で、鉄道に乗って逃げた殺人犯の特徴と乗っている列車内での位置が伝えられて、その殺人犯の逮捕につながった。

 電流が流れると、電流の通路になっている電線は熱を出す。これはジュール熱と呼ばれる。電線の中での電気の通りにくさ(電気抵抗の大きさ)は電線の材料によってちがう。電気の通りにくいものほど、熱はたくさん出る。細くて抵抗の大きい(といっても絶縁体よりはずっと小さい)電線にたくさんの電気が流れると、電線は熱くなって、ついには光りはじめる。これを応用したのが電球だ。電球では少ない電流でもすぐに光りはじめるように、光を放つ部分(フィラメント)の材料や形、そして電球自体にも工夫がされている。

 モーターは、電気から運動をとりだす。モーターが動く理由は電流の磁気作用だ。コイルに電流を流すと、磁気がうまれる。この磁気で磁石を引き寄せたり反発させて、磁石を動かす。具体的には、回転できる磁石のまわりにコイルを並べておいて、順番にコイルに電気を流すと、磁石はコイルにうまれる磁気につられて回転する。こうして電気から運動を取り出すことができる。モーターの応用は広い。洗濯機はモーターの回転で水といっしょに洗濯物をまわす。冷蔵庫はモーターの力で冷蔵庫の中をめぐるガスを圧縮して熱くしてから冷まし、それをさらに膨張させて冷やす。電子レンジでは食べ物をあたためる仕組みそのものはモーターを使わないが、まんべんなくあたためるために食べ物を載せる皿を回転させるのにモーターを使っている。コンピュータもハードディスクやCDやDVDを回転させるのにモーターを使っている。携帯電話も、バイブレーションで着信を知らせるのにモーターを使っている。

 いまでは電気のない生活はほとんど考えられない。たいしたもんだ。

*1:最初に電磁石を発明したのは、イギリスのウィリアム・スタージャン。19世紀の1825年のことだ。スタージャンはニスを塗った鉄片に絶縁した導線を巻いて電磁石を作った。