阿修羅展

 きょうは代休。いま上野の国立博物館で開催中の阿修羅展を見に行くために今日を選んだのだ。
 幸い、天気には恵まれた。いちにち天気もよく、あたたかだった。やや風があり、それも暑さをやわらげてくれた。上野に着く前から桜があちこちに咲き映えていた。もういくらか緑の葉も出始めている。
 水曜日で平日のはずだが、上野恩賜公園には大勢の人がいた。阿修羅展も40分待ちの行列だった。

 入場券を買おうとしたときに知らない白髪の男性に声をかけられた。「入場券いらない?1300円でいいよ。一般は1500円だけど。」「どうして安く売るんですか?」「買いすぎたんだ。」とはいえ、なぜそんな申し出をしてくるのか、またなぜ払い戻しせずに安く売ろうとするのか理解できなかったので、しりごみして断った。その人は別のおばさんに同じように声をかけて売りつけていたようだ。もしかしたら、普通に買うのと同じ値段を申し出てくれていれば不審に思わなかったかもしれない。安く売るという申し出が理不尽に思えたので怪しく感じたのだ。

 40分の行列はさほど苦ではなかった。気候が悪くなければ、本を読んでいればたいしたことはない。

 入場後は行列を守る必要はなかった。空いているところからどんどん見てくださいというような博物館職員の人らしい声が聞こえた。立ち止まらずに移動しながら見てくださいとかも。

 開催のあいさつを読むと、阿修羅をはじめとする八部衆十大弟子の像が上野に来たのは、興福寺の資金集めのための出稼ぎのようだった。以前、フェルメールの展覧会でそうだったように、ここでもやはりメイン展示物である阿修羅像はほとんど終わりになって登場するように展示されていた。阿修羅は八部衆の一人ということになっているのだが、ひとり別室での展示。前座とトリという雰囲気だ。
 八部衆はみんなほとんどまっすぐ棒立ち。しかもそろいもそろって妙に華奢な細身の体型。大きく腕を広げるようなポーズは阿修羅像だけだ。あまり太い材料の木が入手できなかったのかと疑ってしまった。

 展示に見入る人々のポーズや表情を眺めているとおもしろい。動物園の観客よりは神妙で、あまりふざけたり笑っている人は見当たらない。やや首を傾げるように、じっと見あげて、しげしげと見たと思ったら次の展示に注意が移る。そのときにはもはや目の前の像には興味がないという感じで、一顧だにせずだ。見られている仏像に仮に意識があったとしたら、ひどく気分を害することだろうなと、興味深かった。