昆虫の変態

 蝶のような昆虫は、成長にしたがって姿を大きく変える。幼虫は蛹(さなぎ)になり、やがて蛹からは幼虫とはまったく違った姿の成虫が羽化する。幼虫でも成虫でもDNAは同じだが、その表現形態は大きく異なる。この変身を完全変態というが、どんなしくみなのかはよく知らなかった。きょう、それについてweb上でいくつか見つかった記事を読んでみたのだが、その仕組みは興味深かった。
 完全変態をする昆虫は「成虫原基」という部分を持っている*1。実は幼虫の時代から、その成長原基と呼ばれる部分には成虫になったときの姿の元になる部分が折り畳まれた形で隠し込まれているのだという。畳まれていた成虫の姿の元は蛹の表面に現れる。蛹の表面に見える羽の形などはその現れだそうだ。
 しかし、それだけではない。たんに手袋を裏返すように畳まれた成虫の姿があらわになるのではない。蛹の中ではもっと大規模でダイナミックな変化が起きているのだ。幼虫の体組織は細胞死(アポトーシス)を起こして壊れる。それと並行して成長原基を起点として成虫の体組織が新規に構成される。この両方にはプロテアーゼつまり蛋白分解酵素が関わっているという。蛹の中で、幼虫だった組織はどろどろに溶けて分解し*2、分解された結果を材料として成虫の組織が再構成されるのだ。しかも、この細胞死と細胞形成は区画化されて進行する。たとえば幼虫の腸内細菌が体のほかの部分に広がってしまわないように、腸の細胞は腸の細胞だけで幼虫の組織から成虫の組織に分解と再構成が行われる。それとともに、腸内細菌の殺菌も行われるらしい。
 そんなふうに、幼虫は細胞以下のレベルまでいったん分解される。そして再構成された姿が蛹の中で完成されてできあがるのが成虫なのだ。こうして、青虫は蝶に、ウジ虫はハエに、ヤゴはトンボになる。成虫として羽化することになるのだ。
 こういうありあわせの素材を使って大規模なリストラクチャリングを行う昆虫の生態というのは驚異的だし、とてもおもしろい。工学的に応用すれば単なる変形以上の変身する乗り物やロボット、たとえば合体変形にデザイン的に無理があることで名高いゲッターロボ*3だって作れてしまいそうだ。