まんが表現と小説の違い

 ジュンク堂コミック売り場の壁に掲示してある、あるマンガ原稿の前で立ち止まった。ジャンル分けするとしたら少女マンガだろう。とりたてて斬新ということはないものの、なかなかいい雰囲気だ。
 地の文にあたるナレーションが吹き出しとして画面に点在している。その下の層にはコマ割りされた場面が配置され、コマの中にはナレーションよりも少し大きめの吹き出しに囲まれて、台詞がある。登場人物の顔や姿はそうしたコマの中に、あるいはコマをまたがって、配されている。
 ナレーションは抽象的なストーリー上の情景を指摘する。台詞は登場人物の言葉に声を与える。さらに、マンガには、そのどちらからも得られないキャラクターの表情がある。立ち姿がある。その背景がある。
 小説なら文章で表現するかもしれないが、マンガは当然ながらそれらを絵で表現する。バストショット。クローズアップ。ロングショット。陰影。表象化された描き文字による擬音。
 文字はごく少ないが、表現されている情報は多い。ストーリーにふさわしい画風の絵で適切な演出がなされているコミックは、下手な小説より、よほど伝達能力に秀でていると言ってよさそうだ。
 マンガ原稿は、美術館に展示された作品と同じように、あるいは博物館に展示された工芸品と同じように、鑑賞に足る作品だ。