水素分子の共有結合メカニズムの比喩的説明

 2つの水素原子の共有結合を二組の双子でたとえよう。


 おたがいに区別のつかない男(陽子)の双子と女(電子)の双子がそれぞれ別個にカップル(水素原子)となっている。別々に離れていればそれぞれに安定だが、二組のカップルが十分近づくと、カップルの相手の取り違えが起こる。どちらもどちらがどちらだか区別できないので、てっきり自分は元の相手だと思っているのに実は別の相手だったり、そうでなかったりする。カップルの相手を共有するつもりはなくても結果として共有してしまうのだ。


 カップルはできるだけ近くにいるほうがうれしい(正負の電荷は引き合う)が、いっぽうで、ひとりひとりにとっては動ける範囲が広いほうが気軽である(位置の不確定性が小さすぎると運動量の不確定性が増す)。どちらかがどちらかの近くにいるという状態としては変わりないのだから、二組のカップルは取り違えが発生する程度に近接しつづけるほうがより安定なのである。


 このようにして、2つの水素原子はお互いに引き合うことになり、水素分子を形成する。これが共有結合である。


 上のたとえで、一組のカップルとひとりの男(女でもいいがここでは男としておく)の3名であっても、同様に取り違えが起こる距離に近付けば、3者は近接したままのほうが安定となる。ひとりしかいない女は、二人いる相手のどちらとカップルになっているともいえない状態になる。そのつもりはなくても、実は二人の間を行ったり来たりしているともいえる。男と男のあいだに女が往来することによって、男と男が反発するのが妨げられている。本来なら引きあうはずのない男どうしの間に一種の引力が働いているとみなせる。これが粒子の交換による交換力のたとえである。