ジョン・カーター

火星のプリンセス」で始まるエドガー・ライス・バローズ作の、いわゆる「火星シリーズ」の映画化。
 映画はアメリカではコケたそうだが、観たところ、なかなかおもしろい。コケたというのが、むしろ不思議な感じだ。
 たしかに、実際に火星の上をマーズ・パスファインダーだのマーズ・エクスプロレーション・ローバーだのマーズ・サイエンス・ラボラトリーだのが駆け抜けた後の現代に、火星があんなところだと言い張るのはあまりに荒唐無稽、というのはまあそのとおりなのだけれども、それでも、もしほぼ百年前の、出版当時の読者がこの映画を観たら、度肝を抜かれることだろう。もし作者バローズがこの映画を観ることができたら、随喜の涙を流しそうではある。
 物語は、バローズの叔父でヴァージニア州の騎兵隊に属していたジョン・カーターが、火星に飛ばされ、部族間で戦争をしている一方の部族の王女と恋仲になる、というもの。百年前に書かれた古典的な剣と魔法とサイエンスの冒険譚を現代風に解釈アレンジしたもの、といえばいいか。原作で祈れば火星に行けるという幽体離脱による宇宙旅行だったのが、火星の超技術による「電信」に似たしくみによるテレポーテーションということで再解釈されていたりする。
 むかしからのファンが作ったということで「火星」にこだわりたいのはわかるけれども、「あのころの火星」といまの「火星」はかなり違う。別の宇宙でのお話とでも解釈すればいいのかもしれない。