月に囚われた男

 近未来の物語。月でのヘリウム採鉱に3年契約で従事する主人公は、たまに送られてくる地球の家族、3歳の娘と妻からのビデオメールと模型作りが楽しみだった。ある日事故にあい、基地のベッドで目を覚ますと、基地には自分と同じ姿の男がいて、自分だという。クローンだったのだ。通信の不調は基地の外にある妨害施設のせい。電波妨害を逃れて地球の家族と通話してみると、年頃の娘が出て、妻は死んだといい、電話の向こうで父親を呼ぼうとする。男は自分もまたクローンだったことを悟って電話を切る。2人で基地内を探し、3人目のクローンを見つけて目覚めるように処置すると、事故にあった男は再び事故現場に向かい、死ぬ。後から目覚めたクローンはヘリウム出荷用ロケットに乗り込んで地球に向かい、会社を告発する。
 悲しみの描写がなかなかいい。自分自身がクローンである絶望と、自分の記憶でさえ、ほんとうは自分のものではなくオリジナルのコピーでしかないと知ったときのやりきれなさは胸を突く。モノクロームの月世界と、清潔で素っ気ない基地の中と、まぶしく青い地球。
 オープニングクレジットの文字が基地の壁や床に映し出されて表示される。作品世界の中に書き込まれた文字が新鮮な印象。