本は不思議

 本が好きだ。むかしから。ずっとだ。
 なにがそんなに好きなのだろう。本を読んでいるときの、世界がひたひたと押し寄せてくる感覚。砂浜にうちよせる波のように、言葉がはだしの指の先を濡らしては、後じさる。文字が目に映り、耳に声が聞こえる気がする。物語が始まる。本のなかで、なにかと旧知の仲になる。謎がともなう。知らなかったことを知る。その驚き。よく知っていたことを思い出す。その喜び。軽々と空間を超え、時間を跳躍して、不思議の国のアリスよりももっと、大きくなったり小さくなったりもする。日々の現実を忘れ、そしてまた、日々の現実を捉えなおす。本を読むたびに、透けて見えるような大人の皮をもう一枚、身にまとうのかもしれない。
 本はいいよ。愉しくて、おもしろくて、そしてときどき、怖い。
 また新しい本が読みたくなる。また次の本がほしくなる。