DVD「フルメタル・ジャケット」

フルメタル・ジャケット [DVD]

フルメタル・ジャケット [DVD]

 TSUTAYAで借りて観た。英語の自然なリズムやイントネーションが聞けるという評をどこかで見たから観てみようと思ったのだ。スタンリー・キューブリックの映画ならそんなに大はずれでもないだろうとも思った。どちらもそのとおりだった。
 のっけから、ぎょっとするような映像で始まる。アメリカの若者が何人も、床屋でふさふさした髪をバリカンでばっさり丸坊主にされていくシーンから始まるのだ。いわゆるクルーカット。軍人の丸刈りである。そして新兵訓練場。大勢の訓練生が口の悪い教官の指導で走り込みや障害物走や狙撃訓練を重ねていく。後半はベトナムベトナムが北の共産主義社会主義)と南の資本主義(自由主義)に分かれ、アメリカは南ベトナム側に立って北ベトナムと戦っていた時代。かつての新兵のひとりは軍の報道部に配属されて前線で戦うかつての同期生を取材する。その中で戦争の現場にさらされ、人が殺し殺され、そして死んでいくシーンに立ち会う。戦いの中で部隊の兵士も次々と死んでいく。仲間を狙撃した狙撃兵を見つけるがうまく撃てず、味方の援護で狙撃兵が倒れる。その優秀な狙撃兵はベトナム人の少女だった。彼女は撃たれて半死半生。身動きとれないながらそれでも生きている。唇を動かして「殺して」と呟くその少女を主人公は目をつぶって撃つ。そしてまた、炎と煙に照らされる夜の戦場をミッキーマウス・マーチを賛美歌のように歌いながら彼らは移動するのだ。
 教官の台詞や訓練中に歌われる歌の歌詞は下品だが、その下品さが下劣さにまで落とし込まれてはいない。教官も口は悪くていいところはないが、性格まで歪んで描かれてはいない。教官による新兵いびりはあるがビジネスライク。新兵どうしのいじめのシーンもあるが一度だけ。さらりとしすぎているような気がした。戦場も陽気で、下品さはあってもカラッとしている。戦時の常態としての狂気は描かれているものの、鬱々とした陰気さやねちねちとした陰湿さはない。運命に翻弄されるわけではないが、運命を切り開きもしない。淡々と、心を鈍らせて生き抜く男たちという雰囲気だった。感動したというわけではないが、少し深く心に刺さったかもしれない。だが自分の心を触ってみても痛みは少なく、血も出てはいないようだ。