小咄パターン
米原万里「必笑小咄のテクニック」はすごい。整然と小咄の創られ方を説明してくれる。
- 作者: 米原万里
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/12/16
- メディア: 新書
- 購入: 7人 クリック: 33回
- この商品を含むブログ (68件) を見る
詐欺の手口を示す
- 詐欺の手口を示す。
- 謎を提示してそれを解き明かす。
- 騙されていた事実と意外な騙しの手口を知らされる。
- オチとは異なる展開を思い描くようミスリードする。
悲劇喜劇も紙一重
- 最初からオチなんてない。オチにしてやるのだ。
- 情報提供の順序次第で、オチを演出し小咄を創ることができる。
- オチが最後に来ること。
- 落とすためには、先に持ち上げなくてはならない。
- オチを成立させる前提条件を先行させること。
- オチも前提条件もあたかも必然であるよう他の情報の順序に配慮すること。
- 最後のオチまで付き合ってもらえるよう、謎と答えを小出しにすること。
- できれば謎解きとミスリードをシンクロさせること。
- 最大の謎の氷解とオチとを一致させること。
動物と子どもには勝てない
- 優越感をくすぐる存在であると同時に、邪気のないナイーブなものの見方や新奇な発想が可能な存在。
- 予測を裏切るような論理の持ち主が、大真面目に考え、行動し、発言している、ということが大切。
- 動物と子ども以外に、痴呆老人、何らかの中毒症、あるいは神経症を病む者が登場する。
- 未開人や民族的少数派を、これに当てはめる小咄も世界各国に多数ある。
- 常識的な論理とは異なる論理の持ち主、人生の優先順序が異なる人々こそ、小咄においては大歓迎。
- 異なる論理と視点が出会うことによって生じる落差こそがオチになる。
- 性生活をリタイヤした老人なんてのも、小咄には貴重な存在。
お株を奪って反撃
- 攻撃を食らった側が、相手の得意技を用いることで意表を突き、反撃に転じる。
- 視点を当事者から一挙に相手方にずらして論理を逆転させ、合わせて笑いを取る。
- 自分の欠陥をあたかも相手の欠陥であるかのように反転させる。
- 相手の論理に従っているように見せながら、相手の論理の部分的欠陥(言葉尻)を突いて転覆させてしまうような別な論理、というか屁理屈。
- 相手の論理を乗っ取るには、部分的欠陥に付け入るか、主客転倒させるか、論点のアクセントを移動する。
- 異なる論理と視点の最たるものは、利害の対立する者のそれである。
- 別な視点や論理に対する想像力の欠如こそが、小咄に不可欠の盲点を形作る。
木を見せてから森を見せる
- 突然他の論理を持ち込む。
- どアップから突然ズームアップする。
- 井の中の蛙に大海を知らしめてしまうのである。
神様は三がお好き
- 前の二つの言動から形成される期待の地平が三つ目でずっこける。
- 三つの願いの三つ目で前のふたつを帳消しにする。
- 形成された期待を最後にずらす。
- 期待の地平をずっこけさせていき、最後に大きく破綻させる。
誇張と矮小化
- 厳かな一大事が日常茶飯に乗り越えられて、一瞬にして矮小化されてしまったその瞬間。
- 具体的イメージによる誇張と、日常性への矮小化によって、生々しく感じさせる。
- さらなる誇張による冗談モードになり、矮小化でオチとなる。
- 異常に誇張すると、目前の出来事とは別のリアリティー、別な論理、別な見方が出てきて、不愉快な現実を相対化する、取るに足りないことであるように思わせる効果がある。
- 悲惨な現実を誇張すると、辛さ惨めさを突き抜けて助かることがある。
絶体絶命の効用
- 小咄はむやみやたらと危機的状況を好む傾向がある。
- 窮地に陥った人間の必死の姿は笑いを誘う。
- 笑いは、緊張した心身が弛緩した瞬間に起こる反応だから、まず神経をピンと張りつめさせるというのは、たしかに有効な手段なのだ。
- 些末事を生死より上に置くという、この優先順位逆転の方法をとると、実に簡単に小咄ができあがるのだ。
- 死という観点から眺めると、浮き世で絶大なる権力も畏れ多い権威も法も道徳律も、絶対的と思われた格式も、永遠と思われた美も、色あせた下らない物事に思えてくる、という効用もある。
言わぬが花
- 「下劣なこと」「いやらしいこと」は言わぬが花なのである。「下劣で」「いやらしい」想像力を思う存分羽ばたかせるためである。
- もう一つの見方、考え方を最後まで言い切らずに、聞く者や読む者の想像に任せてしまうことで、効果を増幅する、という方法がある。
- 比喩やほのめかしによって、短い小咄に、建前と本音、思い込みと現実など二つの立場を共存させることが可能になる。
- 卓抜な比喩は、今まで当然視してきた現実や現象を異なる角度から見せてくれる。それが笑いの素になる。
- 笑いは苦かったり、ブラックだったりする場合もある。それを皮肉とか反語法という。
悪魔は細部に宿る
- 圧倒的多数の小咄は短い対話の形をとるか、ある状況を直接話法のオチで締めくくるかしている。その意味で、小咄は物語というよりも芝居である。
- 駄洒落は最短の小咄。
- 小咄の基本的構造は、失われたものの回復の失敗である。あるいは、予定されていた回復の処方箋が無効であることの言い渡しである。
- 些末事に軸足を移すことによって、ひっくり返すか、肩すかしを食わせるか、無意味化する。
- 本来全体に奉仕すべき細部を取り出して、その細部に全体を奉仕させてしまう。
権威は笑いの放牧場
- 両者がただただ似ているというにすぎない発見に嬉しくなり、腹をかかえて笑い転げるのだから不思議だ。形が同じで内容が異なるモノに人間はそういう反応を示す。
- 爆笑度には法則があって、知名度と生真面目度と相似度とに比例し、内実の近似度に反比例する。
耳を傾けさせてこその小咄
- 上出来な小咄が仕上がったとする。そうなると、誰彼の見境なく話して聞かせて笑わせたいと思うのが人情だが、これがままならない。
- 話すに相応しい状況に遭遇するまで虎視眈々と待ち望む。
- わざわざそれに相応しい場に自分から飛び込んでいくという方法もある。
- 相応しい状況を、積極的に創り出してしまう、という方法もある。
- 状況に合わせて小咄そのものを改竄してしまうという、さらに積極的な方法もある。
- 最も積極的な小咄の状況への適応法は、既成の小咄を改竄するというよりも、適宜状況に合わせて、新しい小咄を創っていくことである。
読んでいると、簡単に創れそうな気がしてくる。ただ、各章の末尾には問題がついていて、じつは簡単ではないことまで思い知らせてくれるのだ。