避震法 - 地震予知ができないとしても

 「歴史は『べき乗則』で動く」を読んで、考えた。

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

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地震・火災・・・

 地震や森林火災には、大規模なものもあれば、小規模なものもある。地殻のひずみや森の樹木がランダムに、ただし近隣の岩石区画や樹木の存在に影響し、影響されながら起こる。摩擦や圧力があったり、日照の争奪競争や種子の散布があったりして、押しあいへしあいがあると、小さな影響が伝わる範囲に大小さまざまな場合が生じる。こうして、ささいな原因が大きな結果を引き起こす、一触即発の状態が生まれてくる。

その規模-頻度分布はべき乗則にしたがう

 このとき、規模と発生頻度には、スケール普遍性があり、規模がたとえば10倍のものがたとえば100分の1の発生頻度だとしたら、そのまた10倍の規模のものはやはりそのまた100分の1の発生頻度になるのだという。この関係が「べき乗則」だ。

予想できない連携

 小さなひずみやわずかな発火は、すぐに収まることが多い。それでも、なかには隣の岩石のバランスを崩すような場合もあれば、隣の樹に燃え移るような火もある。整然と区画化された状態なら、その広がりはどの向きにも同じ困難さでしかひろがれない。しかし放置された状況では、雑然とした「非平衡臨界状態」になりやすい。すると、小さな原因が次々とたやすく遠くまで影響を広げていける経路が見つかるようになる。場合によっては、小さな原因が雪崩を引き起こし、雪だるま式に拡大する。地殻のひずみは野火のように広がり、森林火災は地滑り的に燃え広がるのだ。

どんな規模のものもいつでも起こりうる

 こうした「べき乗則」に従う現象は、あらゆる規模の発生が頻度(発生確率)こそ違っていても、ひとしなみに起こりうる。つまり、次にはどのくらいの規模のものが発生するのかを予測することができない、ということだそうだ。

雷もべき乗則にしたがうのでは

 さてここからは勝手な想像だが、雷も、大きな落雷は滅多にないが、小さな落雷はときどきあり、さらに小さな空中放電は目に見えず耳にも聞こえないものまでふくめれば膨大な数になることだろう。地震や火事とおなじように、雷もおそらくこの種のべき乗則にしたがうのではないだろうか。

雷の防災法を地震に活かそう

 雷の場合には、避雷針がある。避雷針は落雷を予測することはできないが、落雷の影響を軽減し、落雷の発生を予防する。その原理は、大規模な放電が発生する前に、小規模な放電を誘発するというものだ。避雷針は電気をよく通す。避雷針を経由するほうがたやすく放電できる。だから避雷針のまわりにたまった空中の静電気が避雷針を見つければ、そこに電気が流れる。そうして放電を起こす原因が解消されれば、大きな放電つまり落雷は起こらない。たとえ落雷が起こったとしても、避雷針がその経路になる。そうすれば不測の事態にはならない。これが(少なくともいまのところ最も有効な)人間の雷への対処法だ。
 森林火災の場合には、森の中を流れる川が一種の避雷針の役目をしているようだ。火が対岸に燃え移るのを防ぎ、それ以上の火災の拡大を妨げる。川が十分に森の中を網羅するようにできれば、べき乗則を抑制することができるかもしれない。

避雷針をまねて

 避雷針の考え方を地震にも応用することは可能だろうか。できなくはなさそうだ。要するに、雑然とした非平衡臨界状態に、避雷針のようなドミノ倒しのバイパスを設ければいいのだろう。小さな原因が破壊的な結果を引き起こすことを妨げればいいわけだ。避雷針は天に向かって細い導電性の針(というか竿)を突き出す。それによって空中の導電性の小領域の群れが崩れやすいマッチ棒の山のように積み重なっているところに竿を差して意図的に崩落を引き起こす。これを地殻中の地震を引き起こしかねない小領域に対して行うには、たとえば地面に向かって長い竿を刺せばいいのではないか。かつて、モホール計画という学術調査プロジェクトが企画されて実現されなかったことがあった。物理的なボーリングを実施して地殻の下のモホ面にまで到達するドリルを使ってマントル物質を採取しようという野心的な計画だったらしい。しかしモホール計画は予算の問題で見送られてしまったようだ。*1物理的な地殻の串刺しは難しいかもしれない。それなら仮想的な串刺しではどうだろう。たとえば超音波の柱を地中に向けて打ち込む。小さなひずみならそれで破壊されるのではないだろうか。それを継続的に行えば、小さなひずみが大きなひずみに成長することを妨げることができるかもしれない。

地震を飼いならせるかも

 地震や火災、その規模-頻度分布はべき乗則にしたがう。予想できない連携によって、どんな規模のものもいつでも起こりうる。おなじように、雷もべき乗則にしたがうのではないか。そうだとすると、雷の防災法を地震に活かせるだろう。避雷針をまねれば、もしかしたら、人間は、地震さえ飼いならすことができるようになるかもしれない。

*1:現在、独立行政法人海洋研究開発機構JAMSTEC「地球発見」プロジェクトとして同様な計画を進めているそうだ。