超現実的日本地図
- 作者: 新井田秀一
- 出版社/メーカー: 東海大学出版会
- 発売日: 2006/12/01
- メディア: 大型本
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科学書のフロアの壁に以前から貼ってあった衛星写真のポスターの脇に「宇宙から見た日本 地球観測衛星の魅力」が置いてあった。100ページに満たない薄い本である。地球観測衛星が撮影した写真データをコンピュータで貼りあわせて高さを1.5倍ほど強調した画像で、日本全体と各所の景観が収められている。これが、なかなかすごい。つい見入ってしまう。
地図で見慣れた日本の姿である。その輪郭が緑と茶色と灰色に彩られ、縮緬皺が浮き出るように彫り込まれている。これは衛星写真。宇宙から見た日本なのだ。
ざらついた緑の起伏とその周囲の灰色の平坦な面が見える。細かいひび割れと尖って毛羽立った表面。アーモンドか冷やしたチョコレートを砕いたように鋭い起伏は、ほぼ全面が抹茶のような緑で覆われている。起伏のない、平坦な部分はほとんどが青みがかった灰色で、これらは人間が作った都市のコンクリートやアスファルトが入り乱れた色なのだ。緑の起伏は山地だが、そのなかでもとくに荒い部分は茶色がかっており、さらにその頂部は白く色づいている。この白は山頂の雪だ。
平坦な部分はほんとうにまったいらで、平野と呼ばれるのももっともだ。その中央には往々にして川筋が認められる。二本、三本に分かれて海に接続していることも珍しくない。仔細に見ると、海岸の一部には微小な矩形のタイルが散在することがあり、それらが埋め立て地であることがわかる。
緑の山地、青い内海あるいは湖、また緑の山地、山地に囲まれた灰色の盆地、そしてまた緑の山地と、波うつように緑と灰色または青が交替する地形は、陸地が皺になるほど強い力を受けている様子を暗示している。九州から四国の北部を横切り、そのまま紀伊半島を突っ切って走る山地の切れ目がはっきり見える。中央構造線と呼ばれる自然の境界だ。この中央構造線はそのまま東に向かい、本州を南北に横切るもうひとつの山地の切れ目とぶつかる。この南北の切れ目がフォッサ・マグナ(中央地溝帯)と呼ばれる範囲の西の端、糸魚川-静岡構造線である。
日本最大の山、富士山はさすがにひときわ大きな出っぱりである。それでも、この画像で見るとフジツボのような円錐状の突起に見えるにすぎない。有珠山などもそうだが、これら成層火山はまさに地球の吹き出物という風情である。
総じて、地図帳で見知っている日本の輪郭を、ココアの代わりに抹茶で覆われたティラミスからくりぬいたように見える。
地球とは、苔むした岩か、緑カビの生えたみかんのようなものなのだろうかとすら思えてくる。
前に一度この大きなポスターは購入できるのかと尋ねたことがあった。そのときはこれは売り物ではないのでと断られた。ただ、近々この衛星写真に関連した本が出るのでそれなら予約できると聞いた。予約はしなかったが、その本がこれなのだろう。ポスターのほうは今も非売品なのだが、ほんとうは、それがほしい。
しかし本のほうも、写真の見事さは変わらない。サイズこそA4版で壁に貼るにはちょっと小さすぎ、迫力はその分だけは削がれるわけだが。これで1000円は、安いと思う。