「純情小曲集」より「旅上」(萩原朔太郎)

原文

ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背広をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに

翻訳

フランスに行きたい と思っても
フランスは あまりに遠い
せめて 新しいスーツを着て
きままな旅に 出かけてみようか。
汽車が山道を進む そのとき
水色の窓に寄りかかって
ひとりそっと うれしいことを考えよう
五月の朝の 夜明けの雲
若草が芽生えるような 心のままに